COLUMN 誹謗中傷コラム

「フワちゃん」本人が利用を許諾しているGoogleフォトより

令和6年8月現在、インターネット上で有名人による失言とされる投稿が問題となり、波紋を呼んでいます。

1件目は、フリーの人気芸人として活躍する「フワちゃん」によるX(旧:Twitter)における投稿。

2件目は、フリーアナウンサーの川口ゆりさんによるX(旧:Twitter)における投稿です。

いずれも、X(旧:Twitter)における投稿という共通点、周囲の評価としては「失言」とされるという点で共通しており、悲しいことに、このおふたりに対して、周囲から心無い誹謗中傷が寄せられているという点も共通してしまっています。

本稿では、このおふたりの炎上騒動の概要を確認するとともに、炎上の問題となった投稿が法律上どのような問題を有しているのか、またこのおふたりに対する周囲の反応のうち、どのようなものが違法となるのか、炎上騒動が起きた際に企業や著名人はどのような対応をとるべきなのか、ということを解説いたします

炎上騒動の概要

フワちゃんの場合

令和6年8月2日、世界中がパリオリンピックで盛り上がる中、ソニー・ミュージックアーティスツ所属の人気芸人「やす子」さんがオリンピックになぞらえた下記のポストを行いました。

やす子さんによるこのポストは、オリンピックに皆が熱中する渦中、とてもポジティブな内容となっており、ファンからの評判もとてもいいものでした。

これに対して、やす子さんとも共演歴のあるフワちゃんにより、令和6年8月4日、上記のポストを引用する形で、下記のポストがなされました。

おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす

フワちゃんの該当ポストは削除済み)

このポストが炎上し、フワちゃん、やす子さん、周囲の関係者たちは、その対応に追われることになりました。現在では、フワちゃんからやす子さんに対して直接謝罪がなされ、ポストの経緯やその後のフワちゃんの活動休止、番組の降板などが明らかにされていますが、両者のファンの間ではまだまだ炎上騒動は継続しそうな状態です。

川口ゆりさんの場合

川口ゆりさんは、(現在は)フリーアナウンサーとして活躍するアナウンサーであり、アナウンサー業だけでなく司会や講演、執筆業などで活躍されている方です。

令和6年8月8日、川口さんにより、下記のポストがなされました。

ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる。夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる。常に清潔な状態でいたいので1日数回シャワー、汗拭きシート、制汗剤においては一年中使うのだけど、多くの男性がそれくらいであってほしい…

川口さんの該当ポストは削除済み

このポストが「異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為」であるとして、所属事務所「VOICE」との契約を解消されるに至りました。

ポストの内容に対する法的評価

フワちゃんの場合

フワちゃんによる上記投稿を見ますと、「死んでください」という言葉が目に付くかと思います。

この言葉は、他者に対してその生命の途絶を求める意味を全面に出すものであり、対象とされた者の尊厳を著しく傷つける言葉であると評価することができます。

そして、このフワちゃんのポストの引用元とされたやす子さんのポストには、客観的に見て「フワちゃんから何か罵倒されても仕方がない」と言える内容は含まれておらず、やす子さんの落ち度は見当たりません。

そうすると、フワちゃんによる引用ポストは、やす子さんに対する人格攻撃であると評価することができ、やす子さんに対する名誉感情侵害となる可能性がありそうです。

しかしながら、当人間で謝罪が行われていること、やす子さん自身がもう問題としないことを明らかにしているという状況からすると、現時点で不法行為とならない可能性も十分にあると考えられます。

このような投稿は、今回のフワちゃんの投稿だけでなく、芸能人や著名人に対するいわゆる「アンチ」という人々による投稿として現れることが多々あります。死んでくださいや辞めてくださいのほか、逮捕事例もあるようなものですと、殺してやるなどの言葉もあります。

川口さんの場合

川口さんの場合は、誰か特定の人間をあげたうえで臭いに対する問題提起、指摘等をしているわけではなく、広く男性一般に対して自らの経験をもとに、臭い対策をしてほしいという個人の主張、感想を記載している投稿のように見えます

そして、このような投稿自体が、誰か特定の第三者に対して権利侵害をもたらす可能性は極めて低く、直ちに違法な投稿であると評価される可能性もまた極めて低いと考えられます。

そうであるにもかかわらず、所属事務所の対応は川口さんとの契約解除という極端なものであり、一部界隈では「やりすぎではないか。」「契約解除までしなくてもいいのではないか。」などという声が上がっています。

一方で、川口さんの職業に着目してみると、アナウンサーという言葉を主として扱うものであるという立場が重要であったのだと考えられます。アナウンサーという立場から特定の性別に対する一方的な評価を加えるという事態を所属事務所が重く見る、というシチュエーションは、ガバナンス的な側面からも一定程度評価できるものと思われます。

そのため、川口さんの炎上事件については、川口さんの投稿が違法であったために生じたものというよりは、コンプライアンスやジェンダー論などが重要視されている世の潮流により生じたものと評価することができるでしょう。
※令和6年8月16日、下記のとおりVOICEより釈明の声明が公開されました。
【全文】〝男性体臭〟投稿の女性アナを契約解除 所属事務所が「処分重い」批判などを釈明

なお、投稿内容が誹謗中傷(名誉毀損や名誉感情侵害)に該当するかどうかということについては、下記の当事務所コラムでも解説しておりますのでご一読ください

インターネット上の誹謗中傷における名誉毀損と名誉感情侵害|発信者情報開示・削除の可否の基準

2つの炎上事件に対する周囲の反応

上記の2つの投稿は瞬く間に拡散され、XをはじめとするSNS、5chなどの匿名掲示板において、多種多様な評価がなされました。

もっとも、フワちゃんの投稿については有料サロンでの投稿の誤爆や乗っ取りなどの可能性も検討され、内容の評価そのものというよりは、かかる投稿の背景についてどのようなものがあるのかという観点からいろいろな話がされていたようです。

ここで、いわゆるファンとアンチとの区別に関わらず、炎上騒動に乗じて「今ならこいつを叩ける!」と言わんばかりに罵詈雑言を浴びせる者が出てきます。

これらの罵詈雑言の中には、人格攻撃となる苛烈なものから、風評被害を巻き起こすような虚偽の投稿まで幅広く含まれ、まさに”誹謗中傷”と表現することがふさわしいものが数多く含まれます。

炎上している投稿が対象であるからといって、それに対してまで誹謗中傷を加えることが正当化されるわけではありません。こちらの記事(別タブが開きます)でも解説しておりますが、相手に対して非難を加え、それが社会通念上相当とされる限度の範囲に収まる可能性が高まるのは、「それが言われても仕方がないといえる場合」です。今回で言えば、両名のように炎上してしまっているといえど、その炎上が自分に向けられたものではない場合には、「社会通念上相当とされる限度」というハードルが下がる可能性はそう高くないといえるでしょう。

無論、炎上してしまった投稿に対する正当な論評でもが誹謗中傷となるわけではありませんが、正論であれば数を積み重ねてもいい、というわけでもないことには注意は必要です。違法となるかどうかということではなく、あくまでスマートフォンやパソコンの画面の向こうには、生身の人間が1人存在するということは忘れないでいていただきたいものです。

炎上時に企業・著名人がとるべき対応

では、実際に会社に所属する人物、会社と契約をしている著名人やYoutuber、Vtuberなどが炎上事件を起こしてしまった場合、所属先の企業や事務所、当の本人らとしては、どのような対応をとるべきでしょうか。なお、著名人や芸能人の所属する企業・事務所だけではなく、一般の企業や事務所であっても、従業員が炎上した場合の対応として下記と大きく異なる点はございませんので、ご参考ください。

初動から解決まで、事案ごとに細かい内容や影響、派生する問題などは多々ありますが、概ね下記のような動きになることかと思います。

  1. 事態の正確な把握
  2. 本人、関係各所に対する連絡・相談
  3. 社内・事務所内における対応部署の確認(設置)
  4. 対応方針の検討・決定
  5. 上記で決定した対応方針に基づく処理・声明文の公開
  6. マスコミ・メディア対応

では、順を追っておおまかに上記各フェーズにおける対応内容を吟味いたしましょう。

1.事態の正確な把握

まず、炎上してしまった対象の投稿や発言について、当然ですが、それがどのような内容であるのかを検討しなければなりません。

「炎上した投稿や発言」の性質の検討の視座としては、

① 炎上してしまった投稿がどこでなされたのか
② 当該投稿の対象者は誰か(対象者が存在するのかしないのか)
③ 当該投稿は直ちに経済的損失を生じるものであるか
④ 当該投稿は対象者に対してどの程度の心理的ダメージを与えるものか
⑤ 当該投稿が名誉毀損、侮辱等の犯罪行為となるものか
⑥ 当該投稿が⑤だけでなく、プライバシー権侵害や肖像権侵害等の民事上の責任を生じるものであるか
⑦ 当該投稿が炎上した者の関与する契約等の解除事由、賠償事由となっていないかどうか

上記のうち、特に②から④、⑦あたりが、所属企業や事務所にとって最優先確認事項といって差し支えないでしょう。それ以外のものについては、直ちに対応を検討したとしても、そもそもリカバリーのきかない点であるといえるためです。一方で、②から④及び⑦については、その後の迅速な対応により、リカバリーの余地があるということが多々あります。また⑤及び⑥については、後述するように弁護士等の法律の専門家の見解を聞かなければ、直ちに判断することができない場合もあります。

2.本人、関係各所に対する連絡・相談

まずはなによりも炎上した投稿をした本人に対し、直ちに連絡を行うべきです。現代ではスクリーンショットや魚拓、ウェブアーカイブなどにより、投稿が炎上後に削除したとしても、それを閲覧した人々によって何らかの証跡の保全がなされており、事案の解決につながらない場合がほとんどです。

しかしながら、本人自身もおそらく炎上は把握しているでしょうし、いうなれば「延焼」を防ぐためにも、本人のその後の行動をコントロールしなければなりません。本人に連絡後は、対応方針が決定するまで、特段動きをとらないように指示しましょう。

また、本人に対して炎上した投稿の趣旨、理由、発端などを確認しなければなりません。何らかの流れの中で炎上したのか、それともささいなつぶやきで炎上したのかなど、企業・事務所がその後に行う対応や処分の相当性にも影響を与える事由を把握しましょう。

その後、企業・事務所の親会社や関連企業、取引先等、事態が波及しているあるいは波及する可能性のある関係者らに、事態の発生と自社で現在対応中である旨を報告してください。このあたりから、炎上対応・危機管理として、スピーディかつ間違いの許されない段階に入ってきます。

続いて、顧問弁護士や、知人の紹介なりインターネットで検索した、インターネット案件や炎上案件、芸能案件に詳しい弁護士に相談をしましょう。事案の対応窓口を弁護士に一元化してもいいですし、伴走者としてサポートをお願いするのでも構いません。

弁護士に相談することにより、現在炎上している案件が有する法的リスクや、対応の要否、勘所、対応方法など、様々な観点から有益なコンサルティングを受けることができると考えられます。

3.社内・事務所内における対応部署の確認(設置)

炎上事件が発生したとしても、会社や事務所として通常業務は存在しますし、他にマネジメントしなければならない人員や、対応しなければならない取引先、力を入れて臨まなければならない会議やプレゼンもあるはずです。

そうすると、炎上事件の対応だけに力を割くことも難しく、しかしながらしっかりと炎上事件の対応はしなければ会社・事務所のレピュテーションにも悪い影響が生じることとなります。

そのため、炎上事件の対応を行う部署を明確化し、担当者を置くことや、弁護士等の外部の専門家に委託することにより、迅速かつ正確に注力した対応を行うことが重要となってきます。この際、担当者はインターネットトラブルに精通した人間であることが望ましいでしょう。無論、社内の担当者に法的な知識までは必ずしも必要なく、ある種の暗黙知のようなインターネットのルール、慣例、習慣について造詣が深い人間であればベターです。法的な知識は、外部の弁護士が補充します。

4.対応方針の検討・決定

上記のとおり、対応部署、担当者、外部弁護士と整えることができましたら、1.に記載しました「炎上した投稿の性質」の検討結果について改めて確認し、その内容に従い、どのような対応・処分を行うことが適切かということを検討しましょう。

具体的には、炎上した投稿について追加の釈明を行うべきなのか、炎上した投稿が擁護の余地もないために謝罪を行うべきなのか、取引先(広告など)に対して行うべき謝罪・補償・契約の処理などを考えなければなりません。

ひとつひとつ、メリットとデメリット比較衡量し、その時点で一番守らなければならないもの、失っても構わないものとを挙げながら、全体のバランスを考えた対応方針の決定が望まれます。

5.上記で決定した対応方針に基づく処理・声明文の公開

上記4.で対応方針を決定したら、あとは処理を行うことになります。あくまで、炎上した投稿をした本人に比べると、ファンや取引先などは責められる謂れのない被害者的なポジションとなります。最重要なのは、この者らに対して損失も、負の感情も、可能な限り与えないようにすることです。

企業・事務所としては、自社HPに掲載する方法、SNSを通じて掲載する方法、マスコミを通じて公表する方法などパターンは様々ですが、炎上騒動に対してどのように受け止めており、どのように対応することとしたのかという声明文のようなものを公開することが求められます。これは、当然法律上の要請というわけではありませんが、コンプライアンス遵守が叫ばれ、企業のレピュテーションに関して会社や消費者が多大な関心を寄せいていることからも、企業・事務所のスタンスを明らかにし、そのレピュテーションの保全を図るという観点からも、非常に重要な施策であるといえます。

かかる声明文についても、消費者ないし国民は厳しい目を向けてきます。内容の巧拙だけでなく、文章の「てにをは」や論理的なつながり、結論の妥当性等について、新たな炎上の火種となる可能性もあります。そのため、このようなトラブルに精通した者による作成やレビューを行うことも重要となります。

6.マスコミ・メディア対応

マスコミやメディア対応については、相対的には重要度は低く、炎上騒動に関する対応の中では後回しにしてしまって構わないものになります。

しかしながら、取材の希望やインタビューが入る場合には、「炎上した人物を雇用していた」「炎上した人物を所属させていた」立場であるということから、これを完全に無視することはできないといえるでしょう。企業・事務所のレピュテーション確保の観点から望ましくありません。

したがって、上記1.から5.までのうち公開しても構わない情報については、順次マスコミ・メディアを通じて明らかにすることにより、企業・事務所としてクリーンかつ透明性のある対応をしているものとして、これをレピュテーション向上に向けて利用するという形にすることができます。

まとめ

ここまで紹介しました内容は、著名人・芸能人等の炎上騒動への対応の一例にすぎないといえます。

そのため、具体的に可及的速やかな対応が求められる炎上騒動が生じた場合、信頼できる社内の人間、外部の専門家に助言・指導を求め、各事案に応じたオーダーメイドの対応をしなければなりません。

当事務所では、著名人、Youtuber、Vtuber、e-sports選手及びこれらの方々の所属企業・事務所等をクライアントとしており、各種炎上事案に対応するノウハウと経験を有しております。

炎上騒動でお困りの際は、速やかな対応と適切な処理が必要となりますので、お気軽に当事務所にお問い合わせくださいませ。

担当弁護士

弁護士 藤本 大和

SNS上のインフルエンサー、イラストレーター、YouTuberに対する誹謗中傷を中心として、特に発信者情報開示請求に注力している。
インフルエンサーや芸能の法的問題に対する様々な知見を有することから、特にSNS上で一定の知名度を得ているクライアントに対して、手広く法的サポートを提供している。

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