
現在、インターネットの発達に伴いTwitter、Instagram等の種々のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が登場していますが、それらSNSの発達に先立ち登場し、極めて匿名性の高いコミュニティとして匿名掲示板が存在します。
これは、SNSの登場前が最盛期であったでしょうが、その匿名性の高さや利用する人々の多様性、利用人口、取り扱う話題の多さ、参入と離脱の気軽さから、今でも幅広い年代に人気の媒体といえるでしょう。
現在では、特に人気かつ高い認知度を誇る匿名掲示板として、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)、爆サイ、ホスラブ、雑談たぬき、V系たぬき等が挙げられます。
本記事では、これらの匿名掲示板における誹謗中傷の傾向と、その対策としての発信者情報開示請求の手続について解説します。
なお、各種SNSについての解説記事も本サイトにございますので、興味のある方は下記のリンクからご覧ください。
Twitter(ツイッター)に対する発信者情報開示手続|誹謗中傷・著作権侵害・肖像権侵害
Instagram(インスタグラム)に対する発信者情報開示手続|誹謗中傷・著作権侵害・肖像権侵害
匿名掲示板における誹謗中傷の特徴
上記の匿名掲示板には共通して特徴があり、SNSのようなハンドルネームの設定すらない、かつアカウントごとのパーソナリティすら想定されないという完全匿名という状態であることから、誹謗中傷が極めて過激かつ人格攻撃となりやすいというものです。
また、アングラな存在であることから、普段匿名掲示板になじみのない人にとっては、どこかの匿名掲示板において自らに対する誹謗中傷が行われていることにすら気づきにくいということもあります。
そのため、誹謗中傷の存在に気づいた時点で既にアクセスプロバイダにおけるログ保存期間(通常3か月~6か月)を過ぎてしまっており、発信者情報開示請求をしようとしても手遅れとなってしまっている場合が少なくありません。
そのほか、掲示板ごとに特有のスラング(隠語)が用いられやすいことや、誹謗中傷をしている者以外の者らが一種の暴徒と化することもあります。
SNSに比べても、誹謗中傷の投稿をした者の予測といいますか、被害者による加害者の想定がしづらく(SNSの場合には「なんとなくこの人じゃないかという予想はつくんですけど…」という相談を寄せられることが非常に多いです。)、当初の想定よりも誹謗中傷や炎上が拡大することが極稀にあります。
また、誹謗中傷あるいは発信者情報開示請求の対象となる「法律上の権利の侵害」として、SNSは非常に幅広く名誉毀損、侮辱、著作権侵害、肖像権侵害と様々な権利侵害の態様がありますが、匿名掲示板の場合には名誉毀損や侮辱が問題となるケースが非常に目立ちます。
発信者情報開示請求の手続
では、匿名掲示板で誹謗中傷がなされた場合、どのようにして発信者情報開示請求をするべきか。その方法や手続の流れについて説明します。
IPアドレス開示請求
まずは、匿名掲示板の運営に対してIPアドレスの開示請求を行います。
例えば、5ちゃんねるであれば、Loki Technology, Inc.という名称のフィリピン共和国に所在する法人が運営を行っており、IPアドレスの開示請求はこの法人に対して行う必要があります。
個人でIPアドレスの開示請求をすることも不可能ではないですが、海外法人が相手であることを含め、専門的な手続が連続することになりますので、個人で5ちゃんねる相手の発信者情報開示請求を行う人は多くありません。
5ちゃんねるに限らず、ホスラブ、爆サイ等の有名どころは法人にて運営されており、弁護士等の司法関係者にだけ、発信者情報開示請求の相手方とするべき法人情報や、任意でのIPアドレス開示請求の窓口を開示しているところが目立ちます。
例えば、5ちゃんねるであれば任意(メール)でのIPアドレス開示請求の窓口を弁護士にだけ知らせている、ホスラブであれば運営会社情報を弁護士にだけ開示している、爆サイであれば任意(書面)でのIPアドレス開示請求の窓口を弁護士にだけ知らせているなどのことがあります。
これらの情報はいち個人では入手することが難しい情報であり、仮にこれらの情報をいち個人が知ることができたとしても、これらの法人とのつながりがないことから、「これらの法人が当該匿名掲示板の運営者である」ことの立証ができないという問題が生じることがあります。
そのため、これらの匿名掲示板を相手としてIPアドレスの開示請求をする場合には、弁護士に依頼することが最も成功率を上げる手段といえるでしょう。
最近の傾向としては、爆サイは弁護士による任意でのIPアドレス開示請求に比較的迅速に応じてくれており、5ちゃんねるとホスラブは裁判所のIPアドレス開示仮処分決定等を要求することが多いものの、運営会社側の弁護士の裁判所への出頭等は不要とされる、というものになります。
したがって、匿名掲示板を相手とするIPアドレス開示請求は、多くの場合、①弁護士とのやりとりによる裁判外での交渉により任意でIPアドレスを開示する、若しくは②仮処分決定若しくはIPアドレス開示命令に柔軟に従い(会社側の担当者等は不出頭)IPアドレスを開示する、という形で決着することがほとんどといえます。
アクセスプロバイダへの発信者情報開示請求
上記①若しくは②の方法のいずれかにより匿名掲示板の運営から取得できる情報は、誹謗中傷レスの投稿に用いられた接続元IPアドレス、その接続元IPアドレスと紐づけられたポート番号、タイムスタンプ(接続日時)、接続先IPアドレスなどです。
アクセスプロバイダ(NTTドコモやソフトバンク株式会社など)に対して発信者情報開示請求を行う場合、誹謗中傷がなされた場所が匿名掲示板であれば、これらの情報がほぼ必須となりますが、有名どころの匿名掲示板であれば、IPアドレスの開示請求に対する部署と対応のノウハウが確立しており、適切な請求を行えば漏れなくこれらの情報は開示されます。
これらの情報が開示された後は、アクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟あるいは発信者情報開示命令の申立てを行い、誹謗中傷を行った者が利用していた回線の契約者情報の開示を求めます。
ここで要する期間としては、訴訟の場合半年前後、開示命令の申立ての場合には2~3か月程度というのが平均的なものとなります。
おわりに
匿名掲示板はその匿名性ゆえに、匿名掲示板が存在する限り誹謗中傷はなくならないと言われています。
しかしながら、適切なタイミングで適切な対応をとらなければ、誹謗中傷は瞬く間に広がり、取り返しのつかない炎上を招くこともあります。
このような誹謗中傷の被害に対応するには、専門分野としてインターネットトラブルに精通している弁護士でなくては不可能な側面が多く、誰でもできるというものではありません。
当事務所では、匿名掲示板をはじめとして、各種SNSの誹謗中傷対策・対応に力を入れており、日々すさまじいスピードで進化するインターネット上の誹謗中傷やシステムについて研究を深めています。
誹謗中傷の被害に遭われた方の初回相談は無料となりますので、発信者情報開示請求や削除請求をするべきかどうかお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。