COLUMN 誹謗中傷コラム

令和4年10月より、従来の発信者情報開示請求手続に合わせて、新しく発信者情報開示命令という制度が施行(開始)されることになりました。プロバイダ責任制限法の改正による新設ですが、改正自体は令和3年4月21日に行われており、少し時間が空いての施行となりました。

本記事では、従来の発信者情報開示請求の制度と比較しながら、発信者情報開示命令制度がどのように変わったのか、懸念される点はまだ残っているのかなどの点について解説いたします。

発信者情報開示命令の概要

発信者情報開示命令は、従来の発信者情報開示請求と同じく、インターネット上に誹謗中傷や著作権侵害、プライバシー権侵害等になりうるツイート、投稿、ストーリーズをアップロードした人(投稿者)の氏名、住所などの開示を裁判所に求める制度です。

発信者情報開示請求では、まずは投稿者の利用したIPアドレス(個々人に割り当てられるインターネット上の住所のようなものです)の開示を「仮処分」という裁判手続によってコンテンツプロバイダ(Twitter、Instagram、YouTube、匿名掲示板等)に求めることがスタートとなります。
その後、仮処分で無事に勝つことができ、IPアドレスが開示された場合には、そのIPアドレスを投稿者に提供していたインターネットサービスプロバイダ(NTTやソフトバンク、ニフティ等)に対し、皆さんご存知の「訴訟」を提起し、「このIPアドレスを利用してこの投稿をした人の契約者情報を教えてくれ!」と請求することになります。
要は、仮処分と訴訟という二段階の裁判手続を利用する必要があり、発信者情報開示をしたい人にとっては手間と時間、弁護士費用が余計にかかる制度となっていたわけです。

また、インターネットの進化は日進月歩、いろいろなサイトやSNSが次々に登場し、特にIPアドレス周辺のシステムは極めて専門性の高い複雑な問題を孕むようになりました。

そこで、従来の発信者情報開示請求の制度と並行して利用できる発信者情報開示命令という制度が創設されたのです。

発信者情報開示命令では、上記のように仮処分と訴訟という二段階の手続をとることが必要なくなりました。
具体的には、「非訟」という訴訟手続とは異なる簡易迅速な裁判手続の一種を利用し、一つの手続の中でコンテンツプロバイダ(Twitter、Instagram、YouTube、匿名掲示板等)とインターネットサービスプロバイダ(NTTやソフトバンク、ニフティ等)を同時に相手にし、おそらくですが早ければ3~4か月程度で契約者情報の開示まで完了するのではないかと考えられています。

手続の流れ

発信者情報開示命令制度に関する改正プロバイダ責任制限法を読み、そこで把握できた手続の流れを説明いたします。手続の横に、誰が動くことになる手続かということを記載します。申立人というのが、発信者情報の開示を求める人のことです。

1 コンテンツプロバイダ(CP)に対する発信者情報開示命令の申立て(申立人)
従来のIPアドレス開示の仮処分の要領で、Twitter、Instagram(メタ社)、YouTube(Google)、匿名掲示板管理者等のコンテンツプロバイダを相手方として、IPアドレス等を対象とする発信者情報開示命令申立てを行います。

2 提供命令の申立て(申立人)
1の開示命令の申立てに合わせ、コンテンツプロバイダに対し、利用されているインターネットサービスプロバイダはどこかという情報を提供するよう、提供命令の申立てを行います。

3 インターネットサービスプロバイダ(ISP)の情報の提供(コンテンツプロバイダ)
2の提供命令の申立てについて、裁判所の決定(判決のようなものです)がなされると、コンテンツプロバイダから、問題となった投稿に利用されたインターネットサービスプロバイダの情報が開示されます(住所と名称)。

4 インターネットサービスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立て(申立人)
インターネットサービスプロバイダが判明した後は、同じ手続の中でインターネットサービスプロバイダに対し、投稿者の住所氏名の開示を求めて発信者情報開示命令の申立てを行います。手続は1つですが、申立ては順を追ってここで2つになります。3の時点でIPアドレス開示の申立ては取り下げても構わないのですが、取り下げなければこれら2つの申立ては併合されることになり、取り下げていた場合であれば形式的には別事件扱い(事件番号も別なのかは不明ですが、当事者が異なることから別番号になると思われます)になりますが、1つの連続した手続という建前があることから同じ裁判官が担当することになると思われます。

5 IPアドレスの通知(コンテンツプロバイダ)
インターネットサービスプロバイダに対して4の申立てをしたことをコンテンツプロバイダに連絡すると、コンテンツプロバイダから申立ての相手方となったインターネットサービスプロバイダに対し、投稿者のIPアドレスが通知されます。申立人がIPアドレスの開示命令の申立てを取り下げていない場合、おそらくIPアドレス開示の決定が先に出されるでしょうから、同じくらいのタイミングで申立人にもIPアドレスが通知されることになりそうです。

6 ログ消去禁止の申立て(申立人)
インターネットサービスプロバイダに対し、契約者情報を消してしまわないように申立てを行います。発信者情報消去禁止命令申立てという名称ですが、現行制度でも同じような手続を(任意か裁判手続かは別として)行うことは必須です。申立てのタイミングが4と同時なのか、5による通知がされた後なのかは判然としませんが、現行制度でコンテンツプロバイダに対してIPアドレス消去禁止の申立てを行う際には、IPアドレス開示仮処分の申立てと同時に行うことから、4と同時に申立てができるのではないかと当事務所では推察しています。

7 意見聴取(インターネットサービスプロバイダ)
インターネットサービスプロバイダが4の申立てを受けた場合、投稿者(契約者)に対し、開示命令の申立てがされていること及びそのために契約者情報を開示してもいいかどうかの質問が書面でなされます。投稿者が開示しないでくれという場合には、その理由も書面にて回答するよう求められます。現行制度でも同じ手続があります。

8 契約者情報開示(住所、氏名、電話番号、メールアドレス)(インターネットサービスプロバイダ)
裁判所が申立人の発信者情報開示命令申立てを相当であると認めると(申立人の主張が正しいと認められると)、インターネットサービスプロバイダに対し発信者情報を開示するように決定が出され、その決定を受けてインターネットサービスプロバイダから申立人に対し、契約者情報が開示されます。開示される情報は基本的には住所氏名ですが、電話番号とメールアドレスを開示の対象として申立てをしていた場合には、これらの情報も開示されます。

9 開示されたことの通知(インターネットサービスプロバイダ)
契約者が開示されると、投稿者(契約者)に対し、裁判所の決定により契約者情報を開示したことが通知されます。

発信者情報開示命令のメリット

まず、仮処分手続ではなくなったため、一部のコンテンツプロバイダ(特にTwitter)を除き要求されていた担保金(開示の場合は10万円とされることがほとんどでした)が必要なくなります。
また、冒頭に述べたとおり従来の手続の半分以下の期間で契約者情報の開示を受けることができるようになるとされています。
そのほか、申立費用や弁護士費用が安く抑えられます。

発信者情報開示命令の懸念点

最も懸念されており、まったく情報が無い(法律上の問題ではないので当然なのですが)のが、インターネットサービスプロバイダが発信者(契約者)の特定のためにコンテンツプロバイダから開示された接続先IPアドレスの提示を要求する場合です。
これは必ず開示される投稿者のIPアドレスとは別のもので、投稿者のIPアドレスは投稿者のインターネット上の住所と例えられる一方、接続先IPアドレスというのは投稿先のサイト・SNSのインターネット上の住所のことです。
匿名掲示板であれば、投稿者のIPアドレスと一緒に接続先IPアドレスも開示されることが多いのですが、TwitterやInstagramのようなSNSでは接続先IPアドレスが開示されず、そもそもTwitterやInstagram側が接続先IPアドレスの情報を取得していないと言われます。
そのため、申立人側で接続先IPアドレスの情報を用意する必要があるのですが、インターネットサービスプロバイダ側(特にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)が「申立人が用意した接続先IPアドレスの情報ではダメです。」と言ってくるため、現行制度では接続先IPアドレスの情報を申立人側で用意し、IPアドレス開示の仮処分や訴訟とは別途、ログ保存の仮処分を申し立てることが要求される場面が非常に多いです。

発信者情報開示命令を利用し、この接続先IPアドレスが無ければインターネットサービスプロバイダが発信者を特定できないタイプの会社だった場合に、どのタイミングで申立人側から接続先IPアドレスの情報を提供すればいいのか、そもそも発信者情報開示命令の制度の中であれば申立人が調査した接続先IPアドレスの情報を元に契約者を特定してくれるように運用を変えてくれるのか、という点が最大の懸念点ではないかと思います。

その他、コンテンツプロバイダからインターネットサービスプロバイダに提供されるIPアドレスがログイン型の場合(ログイン時IPアドレス)、膨大なIPアドレスの中からどれを提供するのか、適切なIPアドレスを提供してくれるのかなどが未だ不明な情報です。

おわりに

発信者情報開示に精通した法律事務所であっても、未だ手探りで研究中の「発信者情報開示命令」の制度。
当事務所でも、日々発信者情報開示命令に関する研究を弁護士を含め所員一同進めており、クライアント様に対して最適かつ満足のいくソリューションを提供できるよう、日々研鑽しております。
発信者情報開示命令だけでなく、従来の発信者情報開示請求制度についても、十分なノウハウと解決の実績を有しておりますので、インターネット上の誹謗中傷にお困りの方は当事務所にお気軽にお問い合わせください。

担当弁護士

弁護士 藤本 大和

SNS上のインフルエンサー、イラストレーター、YouTuberに対する誹謗中傷を中心として、特に発信者情報開示請求に注力している。
インフルエンサーや芸能の法的問題に対する様々な知見を有することから、特にSNS上で一定の知名度を得ているクライアントに対して、手広く法的サポートを提供している。

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