COLUMN 誹謗中傷コラム

旧Twitter,Incがその代表を務めるイーロン・マスク氏により、同人が別途経営するX.corpに吸収合併されたことを端緒として、Twitter,Incの主要サービスであったSNS「Twitter」も、令和5年7月24日以降「X」へと順次名称変更がなされています(画像出典:AppStore)。

この名称変更、システムの変更が、X上での誹謗中傷等に影響を与えるものか、弁護士の視点から解説します。

Xへの名称変更と用語の変更

TwitterがXへと名称変更したことにより(令和5年8月3日現在、Webブラウザ版、iOS版、Android版の全てでアップデートによる名称変更が確認されています。)、今までTwitterユーザーが使用していたTwitterのシステム上の主要な用語も下記のように変更されました(日本語版に準拠しています。)。

  • ツイート → ポスト
  • リツイート → リポスト
  • 引用リツイート → 件の引用

ただし、利用規約や投稿画面などでは未だに「ツイート」や「リツイート」といった用語が残っていることが散見され、引用リツイートが「件の引用」と表記されているのも、日本語訳の不適切さに由来するものと思われますため、漸次さらに変更されていくことが予想されます。

実際に、イーロン・マスク氏はXへの名称変更前、ツイートを「X’s」、日本語読みで「エックセズ」と用語変更することを示唆していましたが、この案はいつの間にか立ち消えとなり、上記のポストという名称になっているのが現状です。

ここで、一般ユーザーないしX上で誹謗中傷に悩む方々にとっては「Twitterのときには誹謗中傷の被害に遭ったら投稿者の特定や損害賠償請求、削除請求などができると聞いていたが、Xでもできるのだろうか。」という疑問があることでしょう。現に、当事務所に対してもそのような疑問が相談として寄せられており、Xのユーザーにとっては関心ごととして捉えられる事項であると考えております。

Xへの名称変更の法的性質

まず、時系列順を簡単に言いますと、

と進んできております。

イーロン・マスク氏の上記手法には賛否両論といったところで、世論からは様々な意見が飛び交っておりますが、ここではその内容は割愛いたします。

さて、上記の買収及び名称変更について、それぞれの観点から法的にいかなる扱いがなされるものかをまず本項で解説し、次項において発信者情報開示手続の適否について解説したいと思います

吸収合併

イーロン・マスク氏はTwitter,Incを買収したわけですが、その手法は既に存在するXCorp.という会社にTwitter,Incを吸収合併させるというものでした。

吸収合併とは、吸収合併契約における当事会社のうち1社が合併後も存続し、合併により消滅する他の当事会社からその権利義務の一切を承継するものをいいます。これは、日本法においてもアメリカ法においても異なることのない基本概念です。

実際、アメリカにおける登記書類上も、Twitter,IncはXCorp.により吸収合併されたことを証明する旨の記載がされています。

Twitter,Incは日本において事業活動を行っていたことから、会社法上要求される日本における代表者を定めたうえでその旨の登記も行っていましたところ、上記の吸収合併の報道からほどなくして、XCorp社の日本における代表者も無事登記がなされています。

この日本における代表者は、従来のTwitter,Incのときと変わらず、とある日本における弁護士が引き続き務めているようです。その日本における代表者の弁護士はかなり業務が煩雑になっているというという話を聞き及んでおりますことから、本記事では具体的にどこの弁護士かという情報については伏せさせていただきますが、検索すればすぐに出てくる情報です。

話が逸れましたが、吸収合併が起きた場合、日本法上もアメリカ法上も、吸収合併によって消滅する会社(本件ではTwitter,Inc)が合併の効力発生時点で有していた権利義務は、吸収合併によって存続することとなる会社(本件ではXCorp.)に全て引き継がれることとなります。すべてを引き継ぐこととならない形式の契約については、会社分割若しくは事業譲渡というように法律上分類されることとなります。

XCorp.に関しては吸収合併という用語が用いられていることから、Twitter,Incが有していた権利義務がほぼ間違いなく全て承継されていると見ていいでしょう。

そのため、日本においてTwitter,Incを債務者、相手方あるいは被告として継続していた法的手続、裁判手続については、吸収合併後も法律上XCorp.によって受継されていることとなります。

サービス及び用語の名称変更

上記のとおり、TwitterはXとその名称を変え、様々な仕様変更がなされています。

しかしながら、一般的にはこの単なる名称変更はシステムの根幹に影響するものではなく、あくまでユーザーインターフェース等に絡む表面的なものにすぎないのが現状です。

そのため、現時点ではこれらの名称がTwitterないしXにおける発信者情報開示や削除手続に何らかの影響を与えることはないといえます。

その一方で、Xは現在もTwitterのドメインである「twitter.com」を利用したURLにより構成されていますが、いずれ「X.com」にドメインが変更される可能性があるとされています。

そこで、少しインターネットに関する知識がある人であれば、「ドメイン」が変更された場合、それに紐づく情報も消えてしまうのではないかということを気にされることと思います。

しかしながら、Xにおけるドメインがtwitter.comからX.comに変更されたとしても、間違いなく全てのユーザーはアカウントやフォロー、フォロワーなどに関し、これまでの環境と同じようにXを利用することができるはずです。

つまり、表面上のドメインが変更になるだけで、その奥にあるサーバーに紐づいた情報等は何ら実質的な変更を伴わないものといえます。そうすると、最終的に世界のどこかに存在するユーザーの情報が消えることにはならず、ドメイン変更に伴う多少の煩雑さは生じるかもしれませんが、発信者・投稿者の情報が消えてしまうあるいは特定できなくなるという事態は生じないものと考えられます。

発信者情報開示及び削除請求の可否・適否

これまで記載しましたとおり、TwitterがXになったとしてもその内部的な部分は何ら変わるものではなく、表面上の名称や権利義務の帰属主体が変更になるのみで、法的手続・裁判手続については引き続きXCorp.を相手方として行うことが可能となります。

発信者情報開示請求や削除請求についても、裁判上の仮処分手続や非訟事件である発信者情報開示命令の申立てという手段の如何を問わず、引き続き行うことができるということです。

もっとも、上記のようにtwitter,IncがXCorp.に吸収合併されたタイミングなどに発令された仮処分命令や発信者情報開示命令については、XCorp.側でうまく引継ぎができていないのか、IPアドレスの開示に時間がかかっている事例も散見されるようです。実際に、近時では仮処分命令や発信者情報開示命令の発令の順番を無視してかなり適当にIPアドレスの開示がなされているようで、のんびり開示手続をやっていたのでは開示に失敗するというケースも出てきてしまいます。

そのため、必ずしもXに対する発信者情報開示請求や削除請求をする場合に、本記事で紹介しましたような合併、名称変更の事情を知っている弁護士である必要はありませんが、これらの事情も含めたうえで現在Xに対する発信者情報開示請求がどのようなスピード感で動いているのか、実務上はどのような対応で進めていくのがベストなのかを熟知している弁護士のほうが、発信者情報請求に成功する可能性が相対的に高くなるということはいえます。

今後と展望

今後、Xのドメインが変更されることは、イーロン・マスク氏の性格やこれまでの行動を捉えてもかなり可能性の高い未来であるといえるでしょう。

しかしながら、発信者情報開示請求や削除請求において弁護士がとるべき行動はこれまでとさほど変わりなく、これまでと同様に常に業界の動向に目を光らせ、最新の情報をキャッチアップしている弁護士に手続を依頼するほうが、そうでない弁護士に比べて手続の迅速さや確実性は高まるといえます。

願わくば、Xにおけるシステム担当者や法務担当者の仕事が早くなり、弁護士において必要な手続をとれば労せずしてIPアドレスや電話番号が開示されるような状況が構築されてほしいものです。イーロン・マスク氏がTwitterの運営に介入してくるまでは、かなりスムーズに発信者情報開示請求も進められていたのですが、どうも昨今は弁護士においてかなりの専門知識、勉強が求められるようになってきている気がします…。

当事務所においても、弁護士、秘書で共同して発信者情報開示請求や削除請求の依頼処理に取り組んでおり、日夜Twitter、Xの動向の研究に力を入れています。

Twitter、Xにおける誹謗中傷や、それに対する発信者情報開示請求、削除請求でお悩みの方は、初回30分間は無料法律相談の場をご用意しておりますので、電話、メール、LINE等でお気軽にお問い合わせください。

Twitter、Xに対する発信者情報開示請求について詳しく解説しているコラム(リンク先:当ホームページコラム「Twitter(ツイッター)に対する発信者情報開示手続|誹謗中傷・著作権侵害・肖像権侵害」)もご用意しておりますので、興味を持たれた方は是非一度閲覧していただけますと幸いです。

担当弁護士

弁護士 藤本 大和

SNS上のインフルエンサー、イラストレーター、YouTuberに対する誹謗中傷を中心として、特に発信者情報開示請求に注力している。
インフルエンサーや芸能の法的問題に対する様々な知見を有することから、特にSNS上で一定の知名度を得ているクライアントに対して、手広く法的サポートを提供している。

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