COLUMN 誹謗中傷コラム

インターネット上の投稿に対し、発信者情報開示を行い投稿者を特定、若しくは該当する投稿を削除するためには、単に嫌な思いをしたというだけにとどまらず、自らの法律上の権利が侵害されたことを裁判所にて主張・立証(疎明)する必要があります。
本記事では、発信者情報開示請求・削除請求の場面でよく相談のある、名誉毀損と名誉感情侵害(侮辱)の内容について、それぞれの違いを意識しながら解説をいたします。

名誉毀損

名誉毀損とは、人が有する「名誉」を毀損する行為をいいますが、どのような行為が名誉毀損に値するのかについては、法律家でない人には非常に難しい概念となっています。 そのため、名誉とは何か、毀損する行為とはどのようなものをいうのか、という点を中心に、どういった場合に名誉毀損が成立するのかについて、ご説明いたします。

名誉の意味・定義

名誉毀損における名誉とは、人が外部から受ける社会的評価のことをいい、自分が自分をどのように考えているかなどとは原則として切り分けて考えられます。人が他人に対して良い人だ、悪い人だと判断することが、社会的評価といえます。 後の項で解説いたしますが、自分が自分のことをどのように考えているか、自分をどのように評価しているかなどは、名誉感情侵害(侮辱)の場面で検討される事項となります。

そして、上記の名誉毀損の場面での名誉に関して、裁判所は、名誉とは「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」というように定義しています(最大判61年6月11日民集40巻4号872頁)。 つまり、名誉毀損とは、人がどのような品性を有しているか、行いをするものか、偉い人か、信用していい人かどうかなどについて、マイナスの印象を与えるような発言や投稿、表現をしてしまうことを指すということになります。

社会的評価を低下させる行為

では、名誉を毀損する行為、すなわち人の社会的評価を低下させる行為とはどのような行為をいうのでしょうか。 インターネット上のスラングや表現方法もいろいろなものがあり、時代や流行りに合わせて新しい嫌みが登場するなどしている中、裁判所の判断もそれに合わせていろいろなものが登場するようになっています。 共通するのは、普通の人(裁判所の表現では「一般読者」とされます)を基準として、その普通の人が普通の読み方をした場合に、誰かに対して悪い印象を抱くような表現となっているかどうかです。

参考判例(最判昭和31年7月20日民集10巻8号1059頁)

「名誉を毀損するとは、人の社会的評価を傷つけることに外ならない。それ故、所論新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても、いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合、その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上、これをもつて名誉毀損の記事と目すべきことは当然である。」

ここで、一般読者とは、必ずしも世界中の人の中での平均的な人だとか、日本人の中での平均的な人を想定しているものではありません。 例えば、インターネット上の匿名掲示板やSNSであれば、特定のジャンルや話題に関心のある人々が一種のコミュニティを形成し、その人々の中では独自の価値観やスラング、評価基準などが存在しますよね。Twitterなんかでは「○○クラスタ」なんて言われたりする集団も、このコミュニティの一種だと考えられます。 そのため、そういったコミュニティ、場所の独自性や特殊性もきちんと考慮に入れるため、一般読者というのは、「とあるコミュニティ内での常識的な考え方をできる人」を基準として決められると考えられています。 もっとも、科学技術をはじめとする高度な専門分野に関する場面等では、このようなコミュニティに則した基準は用いられず、専門知識を有さない一般的な人間を基準にすると判断されたものもありますので、注意は必要です。

次に、どのような行為・表現が人に対して悪い印象を抱かせるか、社会的評価を低下させるかについてです。

人の社会的評価を低下させたかどうか、普通の人がその投稿を見て誰かに対して悪い印象を抱いたかどうかについては、人の頭の中の問題となりますので、目に見えないものとして、数値等で測ることはできません。 そのため、「まぁ普通に考えればこんなの見たらその人に対して嫌な気持ちを抱くよね。」とか「人として最悪だなぁ。」という投稿であれば、社会的評価を下げると考えていいでしょう。

ここでは、おおざっぱに社会的評価の低下が認められやすい類型と、認められづらい類型とを紹介いたします。なお、「本当のことなら名誉毀損にならないからインターネット上に書いても大丈夫!」という誤解もありますが、そのことについては別記事で解説いたします。

【社会的評価の低下が認められやすい類型】

  1. 犯罪を行ったこと
  2. 不倫をしたこと
  3. 反社会的勢力であることあるいはつながりを有すること
  4. セクハラ・パワハラなどの世間の情勢に反すると目される行為をしたこと
  5. 統合失調症や精神分裂病などの精神病に罹患していること
  6. 重大な法令違反行為をしたこと

【社会的評価の低下が認められにくい類型】

  1. 単なる男女間の痴情のもつれに関する事項
  2. 普遍的な外見的特徴の摘示
  3. 過去の出来事に関する内容
  4. 社会生活上誰でもやってしまう可能性があるミス等

上記の分類はあくまで大雑把に分けたものでして、どのサイト・SNSで投稿したか、いつ投稿したか、投稿の話題となっている人がどのような仕事をしている人かなど、いろいろな状況により結論が変わることがあります。 いかなる場合に社会的評価の低下が認められるかについて、裁判例も非常に多く集積されていますので、個別具体的な事案については、そのような裁判例をよく勉強している弁護士や、裁判例のリサーチに長けた弁護士に相談をすることが重要となります。

社会的評価を低下させても名誉毀損とならないケース

これまで名誉毀損が成立する場面、名誉毀損該当性について述べてきましたが、これまでに述べた要件を充足したとしても、なお例外的にその名誉毀損行為の違法性が阻却され、名誉毀損が成立しない場面が存在します。

名誉毀損の成立を阻害する要件(抗弁事由といいます)とは

⑴摘示内容が「公共の利害に関する事実」に関するものであること
⑵摘示の動機が「専ら公益を図る目的」に出たものであること
⑶摘示された事実が真実であること
or
⑶´摘示された事実を投稿者が真実と信ずるについて相当の理由があること

のことであり、これらのいずれも満たす必要があります。

⑴摘示内容が「公共の利害に関する事実」に関するものであること

「公共の利害に関する事実」というものをこれまで定義した判例はなく、法文上も記載はされていません。 下級審の裁判所の言葉で説明されたところによりますと、「多数の人の社会的利害に関係する事実で、かつ、その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるもの」や「社会的関心の対象」という表現がされています。

この内容について具体的な事例に即して概観しますと、

  • 不倫、浮気をしていること
  • 会社をクビ(解雇)になったこと
  • 特定の宗教に入信していること

などの、個人のプライベートに関する事項については、公共の利害に関する事実には該当しないと見られることが多いです。 もっとも、その中でも社会的な地位を有する政治家などは、プライベートな事項についての摘示がなされたとしても、内容によっては公共の利害に関する事実であると認定されることがままあります。

⑵摘示の動機が「専ら公益を図る目的」に出たものであること

「専ら」という字を使った表現ではありますが、公益目的とその他の目的とが併存していても、この要件を充足すると判断した裁判例は非常に多いです。
そのため、「専ら」という言葉にとらわれることなく、当該表現を行った動機のメインが公益を図る目的にあればいい、くらいのレベルだとお考え下さい。

公益目的というのもまた非常に抽象的な表現ではありますが、当該表現を行うことが、大多数の国民の利益に資するものであったり、誰かを不当な扱いから守ることに繋がるなどの場合には、公益性が認められる場面が多いといえるでしょう。

具体的には、

  • 単なる嫌がらせ目的
  • 交渉を有利にする武器としての事実摘示
  • 営利目的

などは、公益性が否定されやすい傾向にあります。

⑶摘示された事実が真実であること
or
⑶´摘示された事実を投稿者が真実と信ずるについて相当の理由があること

よくご相談を受けるのが、「本当のことだからTwitterに書いても名誉毀損にならないですよね!?」ですとか「周りもみんな言っているので本当のことで間違いないと思い、Instagramのストーリーに載せて拡散しました。」などの事案です。

本当のことならなんでも書いていいのかというとそうではなく、前提として、先に述べましたように、公共性と公益目的が認められたうえで、その記載内容が真実である必要があります。
そのほか、実際には真実ではなかったとしても、信頼性あるニュースサイト多数で公開されていた情報であり、投稿者自身もそれらの情報をもとに報道内容が真実であると誤信・勘違いしていたような場合には、摘示された内容が真実である場合と同様に扱われることになります。

以上の要件をいずれも充足し、名誉毀損の成立が否定される場面というのは必ずしも多くはありません。

そのため、自らが誹謗中傷を受けた場合にはもちろん、インターネット上に何らかの記事を公開する場合などは、上記の基準を十分に意識した上で原稿の作成等に取り組んでいただきたく思います。

名誉感情侵害(侮辱)

名誉毀損と似ているけれども、実は微妙に違うインターネット上のトラブルの種類として、名誉感情侵害というものがあります。刑法では侮辱罪として規定されているものであり、一般の人には侮辱という表現のほうが身近であるといえるかもしれません。

これまでの事例としては、名誉毀損を理由とする発信者情報開示、投稿・アカウント削除のご相談・ご依頼よりも、名誉感情侵害を理由とする発信者情報開示、投稿・アカウント削除の方針を採るべきご相談・ご依頼が圧倒的に多いです。

また、弁護士が普段利用する判例検索システムなどを見ても、名誉毀損による損害賠償請求、名誉毀損を理由とする発信者情報開示請求・削除請求よりも、名誉毀損侵害を理由とする損害賠償請求、発信者情報開示請求・削除請求のほうが掲載件数も多いものとなっています。

令和4年7月7日より、これまでのインターネット上の誹謗中傷を原因とする痛ましい事件に端を発して改正された侮辱罪の厳罰化が施行され、世間の耳目を集めていることから、今後もこの傾向は続くものと見られています。

時に単なる名誉毀損よりも他者の心を深くえぐることもある名誉感情侵害について、その概観を解説いたします。

名誉感情侵害の成立要件

投稿した記事・ツイート等が誰かに対する名誉感情侵害・侮辱となりうるのは、誰かの気持ちを傷つけた場合、堅い言い方をすればとある表現内容が「…社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合」とされています(最判平成22年4月13日民集64巻3号758頁)。
非常にわかりづらいですが、普通の人なら我慢できない程度に罵られた場合や、よく「不謹慎」などと言われるような表現を受けた場合に、名誉感情侵害・侮辱が成立すると思っておけば大丈夫です。
なお、ここでいう普通の人が我慢できるかどうかとは、実際は裁判官が我慢できるかどうかである、なんて言われることもあります。

なぜこんな基準が作られているのかというと、人間は会話や他人とのやりとりをすることにより、今の社会を作り上げています。だからこそ、些細な言葉尻を捉えてすぐに法律違反だとか、損害賠償だとかの問題にしてしまうと、みんなそうなることをおそれて自由に話をしたり、いろいろな表現行為をしたりすることができなくなってしまいます。
そのため、人が会話やコミュニケーションによって社会を作っていく生き物である以上、ある程度のことまでは我慢し、あるいは言い返して自分で対応するようにして、すぐに法律の問題にしてしまわないようにしたということですね。

では、どのレベルになると我慢の限界を超えたとして違法となるのでしょうか。

例えば、単に「ブス」や「デブ」と口汚く罵る程度では、この「社会通念上許される限度」を未だ超えないものと判断されることが多いと思われます。 その一方で、これらの単語に他のいろいろな汚い言葉をくっつけ、「乞食のような生活をしている永遠の童貞のクソデブブタ」などの表現にすると、社会通念上許される限度を超えると判断される可能性が高いといえます(実際に筆者が見たことのある表現を参考に作成したフィクションです)。

このように、ある程度名誉感情侵害に関する分野を注力して扱っている弁護士であれば、当該表現内容が名誉感情侵害となるか否かは判断しやすいものですが、そうでない弁護士や一般の人からすれば、どの程度であれば名誉感情侵害と認められるかわからないのが実情となっています。

したがって、もし名誉感情侵害かもと思い弁護士に相談される場合には、「これはさすがに表現内容としていくらなんでもひどいんじゃないか?」と思われる記事なりツイートなりを3,4個選別のうえ、見てもらうのがいいでしょう。

名誉毀損と名誉感情侵害(侮辱)の違い

これまで本記事で述べましたように、名誉毀損と名誉感情侵害では結構多くの部分で違いがありますが、この項でそれらの違いについてまとめ、またこれまで紹介していない異同についても解説いたします。

侵害される利益の内容

名誉毀損は人からの評価を、名誉感情侵害は自分の感情を侵害されたときに成立します。
金持ち・貧乏、愛妻家・不倫をする人、正直者・詐欺師、などがいい名誉の比較例かと思います。
可愛い・デブス、賢い・馬鹿、常識人・キチガイなどは名誉感情として保護される例の比較ですね。

それぞれ法律が守ろうとしている人々の利益が違いますので、両方が同時に成立するような表現行為もあれば、どちらかしか成立しないような表現行為も当然にあり得ます。

公然性の要否

名誉毀損の場合には、その投稿の内容が公開されるものであることが必要になります。ツイッターのタイムラインなどで公開されていれば問題ないですが、ダイレクトメールを1人に送っただけでは名誉毀損とならない場合があります。
名誉感情侵害の場合には、表現行為が対象者に伝わり、対象者においてそれが自分のことを話題にしているのだと認識されることとなれば、それで名誉感情侵害が成立し得ます。もちろん、裁判の場では「なんで自分のことだとわかるの?」という説明をしなければなりません。

もっとも、発信者情報開示請求をする場面では、開示請求の根拠となる法律自体が、公開された場所で誹謗中傷を行うことを要件としていますので、実際にはどちらも公の場に投稿されたものであることが必要になるといえるでしょう。

法人に対して成立するか否か

名誉毀損の場合には、法人の社会的評価が低下することもありえますから、法人を対象者としても成立します。
しかし、法人の場合には感情を有していることはありえませんため、名誉感情侵害が成立することはないと解されています。

事実摘示の要否

名誉毀損が成立するためには「事実」を記載する必要がありますが、名誉感情侵害は事実を書こうがただの罵倒を書こうが関係なく成立することになります。

謝罪広告の可否

名誉毀損がなされた場合、その救済の手段のひとつとして、相手に対して謝罪広告を出すことを求めることができます。
これは、低下してしまった社会的評価を、表現行為者による謝罪広告がなされることによって事後的に多少なりとも回復することが可能である、という考えに基づくものです。 その一方で、感情の回復には原則として金銭賠償をもって臨むべきという考え及び広告で必ずしも感情の傷が癒されるものではないという観点から、名誉感情侵害の場合には相手に対して謝罪広告を求めることはできないとされています。

おわりに

以上のとおり、名誉毀損、名誉感情侵害のいずれの場合であっても、それぞれ成立のためには乗り越えなければならないハードルが複数存在します。

また、インターネット上の発信者情報開示請求をする場合には、Twitter、Instagram、Facebook、Youtube等のSNSや、5ちゃんねる、ホスラブ、爆サイ等の匿名掲示板など、表現行為がなされる媒体も多種多様でありますが、それぞれの媒体の特質や性質、フォロワーの数や種類などによっても、結論が変わり得る場面が多々あります。

そのため、単純な過去の事例との比較でご自身が巻き込まれた名誉毀損、名誉感情侵害のトラブルを測るのではなく、弁護士等の専門家の意見も交えながら、多角的な視点で事案を分析することが必要となるといえるでしょう。

お困りの際には、インターネット上のトラブルが生じている場合のご相談につきまして、当事務所は初回無料にて相談をお受けしておりますので、お気軽にお電話、メール、LINEにて連絡をいただければと思います。

担当弁護士

弁護士 藤本 大和

SNS上のインフルエンサー、イラストレーター、YouTuberに対する誹謗中傷を中心として、特に発信者情報開示請求に注力している。
インフルエンサーや芸能の法的問題に対する様々な知見を有することから、特にSNS上で一定の知名度を得ているクライアントに対して、手広く法的サポートを提供している。

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