COLUMN 誹謗中傷コラム

Instagram(インスタグラム)は、2010年にリリースされた、主に写真を投稿することを目的として利用されるSNSのひとつであり、2022年現在は日本国内で3300万人、全世界で10億人のアクティブユーザー数を誇ります。
Instagramでは、フィードと呼ばれる記事に写真を添付し、添付の際には加工・編集を行うことができることから、多くの個性が表れた投稿をすることができる機能があります。そのほか、ストーリーズという24時間で消える投稿を行うこともでき、「あまり長時間残すほどでもないけど、この体験や感想を友人らにも共有したい。」という内容は、このストーリーズ機能を用いてInstagram上に投稿されます。
このように、いろいろな方法で投稿することができるSNSだからこそこっそり誹謗中傷が行われるという事態も生じており、今回はInstagramにおけるトラブルに関し、発信者情報開示請求を行う場合の手続の流れや、進め方等について解説いたします。

開示を行った具体的な事例

まず、手続について解説する前に、Instagramにおいてはどのような場合に発信者情報開示請求がなされていることが多いかをご紹介いたします。

著作権侵害・著作者人格権侵害

Instagramは他のSNSに比べ、写真、動画、画像やイラスト、マンガ等の投稿が非常に多いです。それは、Instagram自体が文字よりも視覚的な効果を活かすことのできる表示設計となっており、ユーザーもそれを利用して個々人の思いの詰まった写真やイラストを投稿するためです。

そのため、Twitterに比べると「インスタグラマー」と呼ばれる人々をはじめとするインフルエンサーの活動が多く、画像の見やすさからイラストやマンガを投稿するイラストレーター等の活動も比較的活発なものとなっています。

そんな中、大量のアカウント、ユーザーの存在に紛れ込み、多くの著作権侵害、著作者人格権侵害が行われており、日々インスタグラマー(インフルエンサー)やイラストレーターの人々はこれらの違法行為の対応に追われています。ここでは、その著作権侵害著作者人格権侵害の具体的について、当事務所で取り扱った事例や裁判例となっている事例を紹介いたします。

  • 漫画家としてアカウントを保有し、Instagramのフォロワー限定で自分のサイン入りイラストを公開していたが、匿名アカウントから、その匿名アカウントが作成したかのように自分のサインを白塗りで消され「ファンアート」を名乗ってそのイラストを盗用された。
  • モデル兼インスタグラマーとして、Instagramでは自分で写真を撮った水着のプライベートショットや寝間着姿などを公開していたが、なりすましと思われるアカウントによりそれらの写真が全部転載されていた。
  • イラストレーターとして1枚2,000円で依頼を受けた似顔絵を描く仕事を受け、クライアントの了解を得たものについてはInstagramのアカウントで公開していたが、公開していた似顔絵を大量に転載したアカウントが出現し、さも自分でそれらの似顔絵を描いたかのようにアピールされ、顧客を奪われた。

Instagramでは、原則として投稿された写真、画像を保存することはできず、Instagramの運営も著作権侵害や著作者人格権侵害、なりすましについては利用規約にて明確に禁止しています。(参考:Instagram利用規約

これらの事例は人によっては軽微な違法と思われるかもしれませんが、写真、イラスト、動画にはそれぞれ作者の個性が込められていますし、1枚のイラスト、1枚の写真を生み出すにあたっても、作者の並々ならぬ苦労やその1本を生み出すまでの知識・経験が詰め込まれています。

特に、マーケティングや仕事の一環として写真やイラストを公表することとしているインスタグラマー(インフルエンサー)やイラストレーターにとっては死活問題となり得ますし、なりすまされたアカウントで風評被害を起こされては、数字で見える以上の損害が発生することとなります。

誹謗中傷(名誉毀損、名誉感情侵害(侮辱))

インターネット上のトラブルの多くが、この誹謗中傷といわれるものです。誹謗中傷とは、名誉毀損名誉感情侵害(侮辱)に分類されるもので、人々の心に深い傷を残し、場合によってはその後の社会活動にも大きな影響を与えることとなります。特に、Instagramでは写真の投稿が非常に多いことから、写真を見た者からの容姿、外見に対する誹謗中傷が目立ちます。

では、Instagramにおいてはどのような誹謗中傷が開示の対象となるのか、見てみましょう。

  • 友人らとナイトプールに行ったときの写真をアップロードしたら「よくその豚みたいな足晒せるな短足ブス」と匿名アカウントからコメントされた。
  • 未成年の息子が夏祭りの際、ビール缶を持ち自転車に乗って酒を飲んでいるかのような写真を友達に撮られ、それが学校のクラスLINEに一瞬だけアップロードされた。その一瞬に誰かがその写真を保存し、匿名アカウントにより学校名、本名、住所の一部をハッシュタグとして記載されたうえ、「未成年だけどお酒飲んじゃいまーす。みんな拡散と通報してくれ!」という内容と共に投稿されてしまった。
  • 既婚者の男友達と2人で写真を撮ったものをアップロードしたら、編集により本名と「最低の不倫女」「人の旦那を寝取って楽しかったですか?」という文字を挿入された写真が作成され、匿名アカウントのストーリーズで公開されてしまった。

Instagramにおいては、ストーリーズという短時間で消える投稿をすることができる機能が備わっており、このストーリーズによる誹謗中傷が存在することが他のSNSにはない特徴といえます。

しかし、ストーリーズによっても誹謗中傷や肖像権、プライバシー権等の法律上の権利が侵害された場合、発信者情報開示請求の対象とすることができます

Instagramでは、匿名アカウントを作成し、問題となるフィードの投稿若しくはストーリーズの投稿をしたうえで、誹謗中傷の対象としたいアカウントのフォロワーをその匿名アカウントでフォローすることにより、その人らに「フォローされたよ」という通知がいくため、誹謗中傷の記事を的確に見せるということができてしまいます。ユーザーとしては、「フォローされたよ」という通知が来た場合には、どのようなアカウントからフォローされたんだろう…と考え、普通はそのアカウントのページにアクセスして投稿やストーリーズを閲覧するからです。

したがって、一般的な匿名掲示板に比べ、InstagramやTwitterのようなアカウントを保有するタイプのSNSは、狙った相手に最もダメージを与える方法で誹謗中傷がなされることが多く、早急に対応すべき問題といえます。

なお、誹謗中傷が行われたストーリーズが後に制限時間により自動で削除されてしまった場合であっても、画面録画やスクリーンショット等によりストーリーズの内容が判明しており、おおよその投稿時間が判明していれば、問題なく発信者情報開示の対象とすることができます

肖像権・プライバシー権侵害

上記のとおり、Instagramにおいては写真を投稿することが極めて多く、そのために人が写る写真も当然多くなります。

投稿された写真を転載した上で悪意のあるコメントを付して投稿することは、上記の誹謗中傷のほかにも肖像権侵害となる可能性のあるものですし、人に知られたくないプライベートな事項を記載することやコメントすることは、プライバシー権侵害となる可能性のあるものです。

例えば

  • 自分の顔の写真を無断転載され、顔の部分に矢印を入れて「こんな顔に生まれるくらいなら死んだほうがマシwww」という編集を施して公開された。
  • 大学に通いながら隠れて風俗店で働いていたところ、大学のサークル活動のときの写真を転用して風俗店で働いている旨の文字を編集により挿入され、公開された。

などの事例が存在します。上の例は肖像権侵害、下の例はプライバシー権侵害となりうるもので、写真と共に内容が記載されている以上、誰のことを言っているのか非常に分かりやすく、肖像権やプライバシー権を侵害する程度が大きいことはわかりやすいものとなります。

Instagram対する発信者情報開示の手続・方法

それでは、上記のような誹謗中傷、著作権侵害、肖像権侵害、プライバシー権侵害等がなされたとき、どのようにして該当の投稿をした人を特定するのか、概観を解説します。

発信者情報開示仮処分命令の申立て

Instagramは、アメリカ合衆国カリフォルニア州に所在の「Meta Platforms, Inc」という法人によって運営されており、これまではこの海外法人を相手方として英訳した申立書等の海外への送達手続を行う必要があり、時間と手間がかかる申立てを行う必要がありました。

しかし、現在は「日本における代表者」として、東京都千代田区丸の内一丁目8番3号に所在の「ビーコンサービス株式会社」が選任されており、同社を送達先とすることができるため、従来に比べて送達手続が簡便なものとなったことから、開示の申立てのハードルが下がりました。

Instagramを相手方とする開示の手続では、まず上記の「Meta Platforms, Inc」から、問題となる投稿をしたアカウントのログイン時IPアドレスという情報の開示を受けることになります。これは、問題となる投稿をするために利用したログイン情報を開示してくれという種類の申立てになり、問題となる投稿が削除された後でも、当該投稿のスクリーンショットが残っており、投稿時間がおおよそ特定できれば開示の対象とすることができるという点でメリットのある形式になります。

このIPアドレスを仮処分という一種の裁判手続により「Meta Platforms, Inc」に開示させ、開示されたIPアドレスをもとに、そのIPアドレスをユーザーに割り当てているプロバイダ(ソフトバンクやNTTなど)を割り出します。その後は、割り出されたプロバイダに対して、「この日この時間にこのIPアドレスを割り当てられた貴社の契約者の情報を教えてください。」という訴訟を行うこととなりますが、本記事で詳細は割愛します。

なお、Instagramはどのような理由によるのか分かりませんが、スマートフォン上でアプリを終了させても(落としても)必ずしも再ログインとなるわけではなく、ログイン状態が継続することがあり、ログイン時IPアドレスの取得のタイミングと、実際の投稿時間に間が空く事例が散見されました

仮処分命令申立書、疎明資料(証拠)、管轄に関する上申書、訴訟委任状、資格証明書等の必要書類がそろいましたら、東京地方裁判所の民事9部に仮処分の申立てを行います。
ただし、著作権侵害等の知的財産権侵害に関する事件については、仮処分であっても民事9部ではなく、民事46部の知財保全事件受付係に申立てを行うこととなります。

民事9部に申立てを行った場合には、申立ての翌日以降おおよそ3日間以内に、申立人代理人弁護士と裁判官で「債権者面接」という打ち合わせを行い、弁護士からの事件の詳しい説明、裁判官からの進行の見通しの説明がなされ、裁判官の心証として「これは情報開示をしてもよさそうな事件だな。」というものが得られれば、「双方審尋」という手続に進むこととなります。
ただし、著作権侵害、著作者人格権侵害を理由とする発信者情報開示の仮処分においては、債権者面接は実施されません。

債権者面接からおおよそ3週間後以降の日程で「双方審尋」が行われますが、ここではInstagram側も弁護士をつけ、申立人代理人弁護士、Instagram側弁護士、裁判官の3人で議論を行い、該当のツイートをしたアカウントのIPアドレスを開示することが法律上相当かどうかという判断を行います。
ここの裁判官の判断でも開示することが相当であるということになれば、双方審尋終了から1週間~10日以内に、Instagram側弁護士から、FAXにより申立人代理人弁護士の法律事務所に対し、開示対象となるIPアドレス等の情報が記載された書面が到着します。

これにより、仮処分の手続は終了となりますが、Instagramの場合には双方審尋終了後、IPアドレス開示前に、10万円程度の担保金を裁判所に納める必要があります。この担保金というのは、違法不当な申立てではないよということを担保するためのもので、開示を受けた後には所定の手続を経ることにより、2か月程度の時間は要しますが手数料の天引き等はなく返還されます。

2022年(令和4年)10月以降の開示手続 法改正

これまでは上記の仮処分手続によりIPアドレスの開示を受けた後に、別途プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起することが必要であり、合計2回の裁判手続を利用しなければなりませんでした。

しかし、2022年(令和4年)10月1日より、プロバイダ責任制限法の改正法が施行され、「発信者情報開示命令の申立て」という手続1回で発信者情報の開示を求めることができ、誹謗中傷等を行った者の情報を簡易・迅速に得られることとなりました。

参考条文(改正プロバイダ責任制限法)
(発信者情報開示命令)
第8条
裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第5条第1項又は第2項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

(提供命令)
第15条
1 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
⑴ 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。
イ 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
ロ 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合その旨
⑵ この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。
2~5 (略)

この手続の創設により、従来の方法よりも迅速かつ負担の少ない開示を行うことができるようになり、Instagram上の誹謗中傷、著作権侵害等に悩む方の救済の可能性が上がったといえます。

上記の新手続はまだ施行されておらず、最初はプロバイダ側やInstagram側も手探りで対応していくことになるとは思いますが、誹謗中傷等の被害者側の専門・技術的なハードルが下がったわけではありませんため、やはり弁護士への依頼により、速やかに開示手続を行う必要性はあるといえます。

当事務所においても、発信者情報開示請求に十分な経験を有する各弁護士で研究を行い、誹謗中傷等の被害に悩まれる皆様に対して適切かつスムーズな事件処理を提供できるよう、尽力してまいります。

担当弁護士

弁護士 藤本 大和

SNS上のインフルエンサー、イラストレーター、YouTuberに対する誹謗中傷を中心として、特に発信者情報開示請求に注力している。
インフルエンサーや芸能の法的問題に対する様々な知見を有することから、特にSNS上で一定の知名度を得ているクライアントに対して、手広く法的サポートを提供している。

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