COLUMN 誹謗中傷コラム

令和6年8月20日、STARTO ENTERTAINMENT所属の人気アイドルグループである「King&Prince」(通称:キンプリ)のメンバー永瀬廉さんに対し、インターネット匿名掲示板「5ch」で脅迫行為を行ったとして、岡山県在住の50代の女性が書類送検されました。

インターネット、特に匿名掲示板では、誹謗中傷だけにとどまらず、その匿名性に胡坐をかいた脅迫行為が横行しており、枚挙にいとまがありません。

本記事では、インターネット上における脅迫行為として違法となるものやその判断基準、民事法上の取り扱いと刑事法上の取り扱いなどについて、解説いたします。

事件の概要

冒頭に記載しました事件は、令和5年12月23日午前3時頃の書き込みが「脅迫」であるとして取り上げられています。

匿名掲示板「5ch」において、

永瀬刺し殺すぞ

という投稿をしたことが、脅迫罪(刑法222条1項)に該当する可能性のある行為であるとして、捜査のうえ書類送検に至りました。

刑法222条1項

生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の拘禁又は三十万円以下の罰金に処する。

e-Gov法令検索

事の発端は、「King&Prince」が「Number_i」という2つのグループ分裂し、被疑者の女性がこの「Number_i」に所属しているメンバーのファンであるところ、永瀬さんのファンが「Number_i」への誹謗中傷を行ったために、反撃として過激な書き込みをした、ということにあるようです。

元は同じグループのメンバーのファン同士、仲良くできないものか…とは思いますが、アイドルのファンの考えは様々なようで、難しいもののようです。

本件では、具体的な対象者の名称を挙げたうえで「刺し殺すぞ」という生命に対する害悪を告知したために、脅迫罪の該当性が認められる可能性があるという状況にあります。

刑法上の脅迫罪

刑法の解釈における脅迫

脅迫罪が成立するための構成要件としての行為は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」することであるとされています。

必要な程度として、一般に人を畏怖させるに足りる害悪を告知することとされています。

そして、この害悪の告知は実際に相手に伝わることは必要であるものの(脅迫罪には未遂犯処罰規定がありません)、実際に相手が畏怖する(怖がる)ことまでは必要ないと判例上示されています(大判明43年11月15日)。

ではどのような事情を考慮して、「一般に人を畏怖させるに足りる害悪を告知」したかどうかを判断するのでしょうか。

ここでは、相手方の年齢、性別、職業などの相手方の事情や加害者と相手方との人間関係など具体的な諸事情を考慮して、周囲の客観的状況に照らして判断されなければならない(最判昭29年6月8日)とされています。

たまたま相手方が相当メンタルの強い者であったために実際には畏怖をしなくとも、上記の事情を総合的に判断すれば、「普通は怖がるだろう。」と判断される状況であれば、脅迫罪が成立するということになりますね。

今回の女性の投稿が脅迫といえるか

では、今回の女性の投稿は、永瀬さんを畏怖させるに足りる害悪といえるでしょうか

まず、対象者として永瀬さんの名前が挙げられている以上、害悪の告知対象が永瀬さんであることは間違いないといえますね(投稿がなされた掲示板、スレッドの性質からしても。)。

次に、刺し殺すぞというワードは、文字通り刃物等を用いて刺突することにより、永瀬さんの生命活動を途絶させようとする意思を表明するものです。

そして、アイドルであるということからも、そのビジュアルからも、永瀬さんは過度に屈強な男性ということもなく、武器を持って刺突行為を試みる者に対して迎撃をいつでもできる体制は当然ないものと思われます。

アイドルとして活動している以上、ライブやテレビ出演予定などはある程度明らかにされており、物理的に接触を試みようと思えば、(失うものがないという覚悟を決めたほどの者であれば)接触することがまるで不可能とまではいえません。

そうすると、現実的にありえる殺人予告であると捉えることができ永瀬さんに対する本件の投稿は、脅迫罪に該当する可能性が十分に高いといえるでしょう。

このことは、キンプリや永瀬さんに対してのみならず、著名人一般に対していえることだと思われます。また、著名人でなくとも、上記の考え方は広く一般人にも妥当する考え方であり、脅迫罪が成立すると想定される場面は多岐にわたるものといえます。

民事上の脅迫

ここまでは、刑法上(刑事事件上)今回の投稿が脅迫罪に該当するか否かという観点から話を進めてきました。

では、警察がなかなか動いてくれないなどの際、民事上で脅迫と思われる投稿に対してどう対処すれば、どう検討すればよいでしょうか

民事法上の脅迫の立ち位置

民事法上、脅迫行為によって侵害される対象者の権利は、一般的に人格権の一内容としての平穏権という権利であるとして把握されます。

平穏権というのは、人の私生活上の平穏、と言い換えられ、何人にも侵されない穏やかな生活を送ることを主たる利益として捉えられます。

そして、問題となる投稿がこの平穏権を侵害するものかどうかは、上記の刑法上の脅迫行為該当性と同じ観点から検討していいでしょう。

つまり、人を畏怖させるに足りる害悪を告知されていれば、対象者の平穏が害されたものとして、平穏権侵害を肯定することができます

なお、直接的に「殺す」などという文言を用いてなくとも、同一の対象者に対して複数回短時間で繰り返して「死ね」などと申し向けており、対象者の所在などが把握可能な状況であるといえる場合や、その他の投稿などから対象者が「もしかして自分の家知られているかも」などと考えられる場合には、「殺す」という文言まではなくとも民事上の平穏権侵害が認められたケースもあり、当事務所でもこのようなケースで発信者情報開示命令を得た実績もあります

脅迫的な投稿に対する民事上の対処法

まずは、匿名掲示板やSNSでの脅迫的な投稿がなされた場合、発信者情報開示手続を行い、その投稿をした相手を特定しなければなりません。

特定の手続の段階で平穏権侵害の有無が最初に審理されることになりますが、可能な限り具体的に、どのように畏怖したといえるのかを言語化できるとより手続がスムーズでしょう。特に、匿名掲示板だけでなく、X(旧Twitter)やInstagramのコミュニティにおいては、その界隈でしか通じない特殊なスラングや話の流れなどもありますため、これを裁判官にも伝わるよう根拠をもって説明できるとより良いです。

なお、具体的な発信者情報開示手続については、X(旧Twitter)、Instagram、匿名掲示板(5ch、ホスラブ、爆サイなど)ごとに下記の記事にて解説をしておりますので、是非ご一読ください。
X(旧Twitter)に対する発信者情報開示手続|誹謗中傷・著作権侵害・肖像権侵害
Instagramに対する発信者情報開示手続|誹謗中傷・著作権侵害・肖像権侵害
匿名掲示板における誹謗中傷と対策|発信者情報開示請求を中心に

脅迫的な投稿をした者が特定できた場合、その投稿者に対し、人格権・人格的利益としての平穏権等を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償請求を行います。

これにより、相手との示談が成立する若しくは勝訴判決を得ることができれば、相手から平穏権侵害に対する賠償金の支払いを受け、同時に今後同様の行為を行わないことや接触をしないことなどを条件として付け、民事上の脅迫事件への対処は終了となります。

最後に

これからますますインターネット上でのコミュニティや交流が盛んになるにつれて、インターネット上での脅迫事件や平穏権侵害などのトラブルは数を増してくるものと想定されます。

不快感を味わい怯えるだけではなく、発信者情報開示請求刑事告訴など、こちらからとれる手段をとって相手に対して脅迫行為の責任をきちんととらせるように動くことが、むしろ自分の身を守ることになるという場面は多々あります。

これまで同様インターネット上での交流やコミュニティへの参加を楽しみたいという場合には、必要な場面に応じて、必要な対処を行うことが非常に重要です。

当事務所では、インターネット上での脅迫行為への対処について、民事上、刑事上様々な事件の対処実績がございます

インターネットトラブルについては初回相談無料で承っておりますので、脅迫行為にお困りの方はお気軽にお問い合わせください。

担当弁護士

弁護士 藤本 大和

SNS上のインフルエンサー、イラストレーター、YouTuberに対する誹謗中傷を中心として、特に発信者情報開示請求に注力している。
インフルエンサーや芸能の法的問題に対する様々な知見を有することから、特にSNS上で一定の知名度を得ているクライアントに対して、手広く法的サポートを提供している。

SHARE
FacebookTwitterLineHatenaShare

ネット上のトラブルで
お困りの方は
お気軽に
お問い合わせください

※お問い合わせ方法がご不明な方は
03-5577-4834」までご連絡ください。