
昨今、多くの人がTwitterやInstagram、TikTokなどの様々なSNSを利用しており、匿名と実名とを問わず多くのアカウントであふれかえっています。
SNSの利用の目的は人によりさまざまですが、ほとんどの場合、他の人との交流や何かしらの情報収集を目的としていることでしょう。そして、利用する際にはSNS上のアカウントには名前をつけ、場合によっては多くの写真を投稿していることかと思います。
今回は、SNS上でのいわゆる「なりすまし」をめぐる法的問題について解説させていただきます。
なお、Twitter(X)、Instagramに関する発信者情報開示手続等については、下記記事で解説しておりますので是非ご一読ください。
X(旧Twitter)に対する発信者情報開示手続|誹謗中傷・著作権侵害・肖像権侵害
Instagram(インスタグラム)に対する発信者情報開示手続|誹謗中傷・著作権侵害・肖像権侵害
目次
なりすましとは
SNSにおけるなりすましは、とある人(ここでは例として「Aさん」とします)の氏名や所属、居住地、家族構成、写真及び動画等を利用して、Aさんではない誰かがAさんのふりをしてアカウントを作成し、まるでAさんがそのアカウントを利用しているかのように見せかける手法をいいます。
このなりすましは、Aさんに真偽を確かめでもしない限り、外から見ているだけではそれがAさんなのかAさんではないのかということはわかりづらく、むしろSNSのアカウント作成は非常に簡単であることから、Aさんの氏名や写真が表れているアカウントであれば、誰でもまずはそのアカウントがAさんのものであると当然に考えるはずです。
そのため、外から見ていてもなりすましの被害が生じていることは判断がしづらく、一般的な誹謗中傷の事案に比べてAさんに状況が伝わりづらいことから、Aさん自身も自らが被害に遭っていることを認識できないという場合が少なくありません。したがって、Aさんがなりすましに気づき、発信者情報開示請求などをして犯人を突き止めたいと考えたときには既にそのなりすましアカウントは運用を停止しており、発信者情報開示請求を行わなければならない期間制限を過ぎてしまっているということもあります。
なりすましの被害の多くは、自らの氏名や写真を勝手に利用され、なにか誹謗中傷を受けているわけではないが何をされるか分からない、目的が分からないということから漠然とした不安を抱かせられるというものになります。堂々と写真を利用してくれていれば、その態様次第ではありますが肖像権侵害などの問題提起ができるものの、単に氏名と個人の所属する団体等(学校や職場など)を記載するにとどまる状態ですと、何らの法的措置もとることができないという場面があります。
また、現在では下記のように「なりすまし広告」という類型の詐欺被害も生じており、著名人になりすまし、あるいは著名人が主導しているかのように装い、高額な金員を詐取するという詐欺を働く広告が社会問題となっています。
「なりすまし広告の削除体制、公表を」総務省がMetaに要請 Facebook・Instagramの詐欺対策求め(ITmediaNEWS)
そこで、本稿では、どのような事例においてなりすましが違法と判断され、発信者情報請求あるいはそれに引き続く損害賠償請求を裁判所が認めたのかという事例を紹介・解説いたします。
なりすましと法律上の権利の侵害
対象者の氏名、住所、生年月日、電話番号等を記載した事例
ツイッター及びFacebookにおいて、対象者の氏名、勤務先の名称、顔写真、生年月日及び携帯電話番号を記載し、そのほか対象者の履歴書の写真等を掲載した者が現れました。
当該人物は、ツイッターの投稿(ツイート)において、対象者の携帯電話番号を記載したうえで、それを閲覧した人に対しその番号に電話するように促したり、「会社にいるときはパソコンに向かってれば安全」、「仕事してるふり。バカばっかだから」、「そろそろ帰ってなんかしてるふり」、「仕事はせずに,適当にぶらぶら」、「ブラブラして心置きなくタバコ吸い」、「口を聞かない嫁。不燃物に出せないか」,「上司がばか」などの記載をし、Facebookの投稿(ニュースフィード)において「ガスメーターの接続を緩めて漏れを作っ」た、「Bの工事にクレームが来るようにイタズラ」などの記載をしました。
裁判所は、これらのアカウントの投稿を見た人にとってはまるでそのアカウントが対象者本人であるように見え、対象者がこれらの暴言を吐くような人間であるという印象を与えることになるから、これらの記載が対象者の名誉権を侵害するもの(名誉毀損となること)であると認め、また、生年月日、住所、電話番号の記載は、対象者のプライバシー権を侵害するということを認めました。
対象者が法に触れる行為をした者であるという記載をした事例
誰でも利用することのできる某ブログサービスを利用して、対象者がまるで当該ブログを作成した者であるかのようにふるまい、対象者が、過去に勤務先のお金を着服・横領して当該勤務先をクビになったり、違法薬物に手を出したことで薬物依存となり施設に入所したり、そのほか様々な違法行為を行ってきたかのような事実の記載がなされたという事案がありました。また、そのブログにはほかにも対象者の運転免許証が掲載されたり、対象者の顔写真、氏名、生年月日、現住所、電話番号、学歴、職歴や父母姉妹の氏名などの個人情報も記載されていました。
裁判所は、これらの記載を見た人は、対象者の社会的な評価を低下させる印象を抱くと認定し、名誉権の侵害(名誉毀損)を認め、個人情報を記載した部分については、対象者のプライバシー権侵害を認めました。
対象者の女性との交際目的を性交目的であるかのように記載した事例
匿名掲示板において氏名不詳者が対象者になりすまし、その者は「セフレとお金出す人募集中」「穴があれば誰でも良いです」という投稿を行い、まるで対象者がこれらの書き込みをした者であるかのような状況を作り出しました。
裁判所は、これらの投稿が対象者本人によるものではなく、誰か見知らぬ第三者が対象者になりすましているものであるということを、通常の判断能力を有する人であれば容易に理解できるものであるとしましたが、一方で、むしろなりすましをした人が対象者名義でこのような投稿をしたことを強調する記載になっているとして、対象者が性交目的で交際する女性を探しているような人であるとの印象を与えるものといえ、対象者の社会的評価を低下させるもの(=名誉権を侵害する)というべきであると認めました。
裁判所の判断基準
これらの事例が代表的ななりすまし事案といえますが、裁判所としては、なりすましについて2つの考え方から違法かどうかを判断していると言われています。
具体的には、まずはなりすまし行為によって、そのインターネット上の投稿や書き込みをしているアカウントあるいはハンドルネーム等が被害者その人自身であるという誤解を見ている人に与え、その状況を利用して被害者が酷い人物であるかのようなツイートや投稿を行う、という類型の事案です。
これは極めてシンプルなもので、上の事例にもありますが、「そんな酷いことをしている人だったんだ」ですとか「そんな気持ち悪い考えをしている人だったんだ」という印象を見ている人に与えることによって、被害者の社会的評価を低下させることになります。
もうひとつの類型は、なりすましであることは明らかに分かるが、そもそもなりすましであろうがなかろうが記載内容自体が被害者の社会的な評価を低下させる場合です。
結局のところ、なりすましという事案で表現されることの多いインターネット上のトラブルではありますが、ツイートや書き込みの内容が誰のことを言っているのかが分かりやすい名誉毀損事案である、という理解が正しいと思われます。
対策と発信者情報開示の可否
特に、SNSの場合には基本的に名前の設定は自由であり、今や誰でも1つはSNSのアカウントを持っており、顔が分かる写真を投稿していることも珍しくないことから、簡単に第三者になりすますことができる社会になっております。
現代社会においてはツイッター(X)、Instagram、Facebook、TikTokなどのSNSのアカウントをもち、そこで友人知人と交流することはもはや必須といえる状況です。古臭く「ネットに写真を上げるな。」「個人情報を出すな。」ともいえない新しい時代になってきているといえます。そのため、なりすましを未然に防ぐには、信頼できる友人知人のみに公開しているアカウントでだけ顔写真や個人情報となりえる情報を掲載するようにすること、可能な限り非公開アカウント(鍵アカウント)でSNSを運用することなどが次善の策となるでしょう。
仮にそれらの対応をしていても、何らかの方法で顔写真や個人を特定できる情報が掲載、転載されてしまった場合には、発信者情報開示請求、削除請求を検討してください。
インターネット上には発信者情報開示請求、削除請求ができないようなツイート、投稿は散見されますが、なりすましの場合には被害が大きくなる可能性がある一方で、誰のことを言っているのかが明確であるために発信者情報開示請求や削除請求等の法的措置が取りやすいという側面もあります。
当事務所でも、なりすましによる被害を救済するため、発信者情報開示請求、発信者情報開示命令、削除請求、損害賠償請求等の事案を豊富に取り扱い、日々裁判例の研究等に尽力しています。
なりすましをはじめとするインターネット上のトラブルのご相談は初回無料となっておりますので、お気軽に当事務所にお問い合わせください。