COLUMN 誹謗中傷コラム

今やSNSの中でも圧倒的な利用者数を誇るTwitter。※2021年時点で世界アクティブユーザー数2億1100万人、2022年7月時点で国内アクティブユーザー数4500万人 利用者数も多いうえに、友人との交流や、自らの趣味に関する情報交換、有名人のツイートの閲覧など、様々な目的・用途で利用されており、人々のツイートの内容には様々な個性が表れます。
そんなTwitterにおいて、発信者情報開示請求が行われる例が年々増加しており、今回はその手続の流れとどのような事例が存在するのかを解説いたします。

開示を行った具体的な事例

まず、手続について解説する前に、Twitterにおいてはどのような場合に発信者情報開示請求がなされていることが多いかをご紹介いたします。

誹謗中傷(名誉毀損、名誉感情侵害(侮辱))

この記事を閲覧されている方の多くが、インターネット上の「誹謗中傷」という言葉を聞いたことがあると思います。
昨今ではこの誹謗中傷を原因として有名人が自殺してしまったり、プロスポーツ選手が自らになされる誹謗中傷を重く受け止めて法的措置に乗り出したりと、ニュースでも取り上げられることが多くなりました。

では、Twitterにおいては具体的にどのような誹謗中傷が行われているのか。当事務所で扱った事例や、裁判例となっている事例として、以下のようなものが挙げられます。

  • モデルとして活動していたため写真をよくアップロードしていたが「汚肌を厚化粧で隠し、足も短いし寸胴、こんなんがモデルとか世の中終わってんな」というリプライ
  • 仕事用に会社のアカウントを作成し運用していたが、そのアカウントのIDを引用したうえで「この会社の●●社長は殺人の前科2犯 ブラック労働で従業員から搾取した金で愛人を囲ってる」というツイート
  • 犬猫の保護活動のためのアカウントのツイートに対する「この人は保護の実績があるように見せかけるため、自分で犬ちゃん猫ちゃんを泥水に落としボロボロにして虐めています」というリツイート(RT)

このように、該当のツイートがその人に極めて大きい屈辱感を味わわせるほどの悪口や、対象者(誰が言われているのか)が明らかになる形で、閲覧者においてその人を「酷い人だ!」と思ってしまうような内容となっている場合には、いわゆる誹謗中傷として、名誉毀損若しくは名誉感情侵害(侮辱)が成立することとなります。

これらの事例はほんの一部にすぎませんが、中にはもっと酷いのもありますし、内容は軽微であるものの長期間複数回にわたって行われているようなものもあります。

著作権・著作者人格権侵害

Twitterでは、いわゆる絵描きとして活動されているイラストレーターの方や、趣味で絵を投稿して同じ趣味を共有して楽しまれている方がいらっしゃいます。 そんな方々からは、以下のような相談を受けたりしますし、紛争となった裁判例が存在していたりします。

  • イラストを勝手に利用され、まるで自分で描いたものかのように振る舞われた
  • 商業もやっていたところ、ツイートに添付する形で商業で出していた本を全ページ無断公開された
  • pixivで有料公開していたイラストを、無断転載で無料配布された

これらの行為は、いずれも著作権侵害若しくは著作者人格権侵害となるものです。 多くの場合が、著作権の中では複製権、公衆送信権を、著作者人格権の中では同一性保持権、氏名公表権を侵害された、という事例となっています。

イラストを作成するという行為は、その人の思想や感情を白紙にぶつけるという行為であり、尊ばれるべきものであるとされています。 そうであるにもかかわらず、そのような書き手、イラストレーターの努力や思いを踏みにじり、あるいは深く考えもせずに、無断転載をしてしまう人が後を絶ちません。

肖像権・プライバシー権侵害

次に多い相談事例として、肖像権・プライバシー権侵害が挙げられます。

Twitterという広大な情報・データの海に、自分の写真・動画や個人情報が勝手に流通させられることについて、肯定的な感情を抱く人はまず存在しないと思います。
自分で出した写真・動画や個人情報であれば、ある程度コントロールした情報であるということができますが、他者にこれらの情報を勝手に公開されてしまう場合、その情報は自らが出したくない、出してほしくない、知られたくない情報であることがほとんどです。
具体的な例を見てみましょう。

  • 自分の写真、氏名と共に、Googleマップの航空写真で自宅の住所が晒された
  • 1年前に整形をしたのだが、自分の現在の写真とともに、整形前の写真をアップロードされ、「昔はこんなブスだったのに今は気取ってる整形バカ女」とツイートされた
  • 自分が子供と遊んでいる動画を晒され、「いいパパを演じていますが、●●株式会社の●●という女と不倫しています」などとツイートされた

ただなんともない自分の写真・動画をツイートされるだけでは肖像権侵害にならないのが原則ですが、他に誹謗中傷となりうるツイートがなされていれば、それと相まって肖像権侵害となることがあります。
また、個人情報についても、どの程度まで具体化された情報か、普通の人は知られたくないと思う情報か、などの観点から判断され、上記のように不倫をしているという事実については、一般的に他人には知られたくないと考えられる情報であるとして、その事実を公表することはプライバシー権侵害を構成することがあります。

Twitterに対する発信者情報開示の手続・方法

それでは、上記のような誹謗中傷、著作権侵害、肖像権侵害、プライバシー権侵害等がなされたとき、どのようにして該当のツイートをした人を特定するのか、概観を解説します。

発信者情報開示仮処分命令の申立て

Twitterは、アメリカ合衆国カリフォルニア州に所在の「Twitter,Inc」という法人によって運営されていますので、この法人を相手方として、東京地方裁判所にて手続を行います。

開示を求めることができるのは、該当のツイートをしたアカウントのログイン時IPアドレスといって、ツイートそのものに結び付いたIPアドレスではなく、そのツイートをするためにアカウントにログインしたときのIPアドレスとなります。
このIPアドレスを仮処分という一種の裁判手続によりTwitterに開示させ、開示されたIPアドレスをもとに、そのIPアドレスをユーザーに割り当てているプロバイダ(ソフトバンクやNTTなど)を割り出します。その後は、割り出されたプロバイダに対して、「この日この時間にこのIPアドレスを割り当てられた貴社の契約者の情報を教えてください。」という訴訟を行うこととなりますが、本記事で詳細は割愛します。

「Twitter,Inc」は法人のため、資格証明書(法人の登記簿謄本)を提出する必要がありますが、こちらのサイト(https://bizfileonline.sos.ca.gov/)で購入・ダウンロードした資格証明書を印刷したものを利用することができます。
別途、和訳とVerify Certificateのスクリーンショットを添付する必要がありますが、東京地裁においては資格証明に関する上申書等の提出は求められません(2022年7月21日現在)。

※令和4年9月1日追記 現在、日本国内において、Twitter社をはじめとする海外のSNS運営会社が日本国内で登記申請を行っております。Twitter社は令和4年8月23日時点で登記申請を完了していると報道されています。そのため、登記が完了した以後の申立ての際には日本法人を債務者(相手方)として仮処分の申立てを行うことができます。その際、Twitter社の日本国内の登記を取得し、日本法人と海外法人の関係性を証明するために、上記の海外法人の資格証明と合わせて裁判所に提出することになります。

仮処分命令申立書、疎明資料(証拠)、管轄に関する上申書、訴訟委任状、資格証明書等の必要書類がそろいましたら、東京地方裁判所の民事9部に仮処分の申立てを行います。
ただし、著作権侵害等の知的財産権侵害に関する事件については、仮処分であっても民事9部ではなく、民事46部の知財保全事件受付係に申立てを行うこととなります。

民事9部に申立てを行った場合には、申立ての翌日以降おおよそ3日間以内に、申立人代理人弁護士と裁判官で「債権者面接」という打ち合わせを行い、弁護士からの事件の詳しい説明、裁判官からの進行の見通しの説明がなされ、裁判官の心証として「これは情報開示をしてもよさそうな事件だな。」というものが得られれば、「双方審尋」という手続に進むこととなります。
ただし、著作権侵害、著作者人格権侵害を理由とする発信者情報開示の仮処分においては、債権者面接は実施されません。

債権者面接からおおよそ3週間後以降の日程で「双方審尋」が行われますが、ここではTwitter側も弁護士をつけ、申立人代理人弁護士、Twitter側弁護士、裁判官の3人で議論を行い、該当のツイートをしたアカウントのIPアドレスを開示することが法律上相当かどうかという判断を行います。
ここの裁判官の判断でも開示することが相当であるということになれば、双方審尋終了から1週間~10日以内に、Twitter,Incより申立人代理人弁護士のメールアドレスに対し、開示対象となるIPアドレス等の情報が入ったファイルをダウンロードするためのメールが届きます。

このメールから該当のファイルをダウンロードすると、その中のテキストファイル(メモ帳)にIPアドレス等の情報が記載されており、ここで仮処分の目的は達成ということになります。
ここまでの期間はおよそ1か月ちょっとですね。

なお、Twitterに対する発信者情報開示については、他のSNSや匿名掲示板と異なり、担保金を納付する必要はありません。

2022年(令和4年)10月以降の開示手続 法改正

これまでは上記の仮処分手続によりIPアドレスの開示を受けた後に、別途プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起することが必要であり、合計2回の裁判手続を利用しなければなりませんでした。

しかし、2022年(令和4年)10月1日より、プロバイダ責任制限法の改正法が施行され、「発信者情報開示命令の申立て」という手続1回で発信者情報の開示を求めることができ、誹謗中傷等を行った者の情報を簡易・迅速に得られることとなりました。

参考条文(改正プロバイダ責任制限法)
(発信者情報開示命令)
第8条
裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第5条第1項又は第2項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

(提供命令)
第15条
1 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
⑴ 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。
イ 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
ロ 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合その旨
⑵ この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。
2~5 (略)

そのため、海外法人相手というハードルの高さは残るものの、弁護士費用の負担、期間制限との戦い、紛争の長期化という観点では、開示を行う人々にとって極めて大きいメリットをもたらすこととなりました。

今後、Twitterをはじめとするコンテンツプロバイダと経由プロバイダがどのようにやりとりをしながら開示の対応を行っていくのかなど、事例の集積が待たれるところではありますが、従来の手続に比べて非常にメリットが大きく、当事務所にておいても各弁護士で研究を行い、開示希望者の皆様に対してスムーズな事件処理を提供するための準備を進めております。

担当弁護士

弁護士 藤本 大和

SNS上のインフルエンサー、イラストレーター、YouTuberに対する誹謗中傷を中心として、特に発信者情報開示請求に注力している。
インフルエンサーや芸能の法的問題に対する様々な知見を有することから、特にSNS上で一定の知名度を得ているクライアントに対して、手広く法的サポートを提供している。

SHARE
FacebookTwitterLineHatenaShare

ネット上のトラブルで
お困りの方は
お気軽に
お問い合わせください

※お問い合わせ方法がご不明な方は
03-5577-4834」までご連絡ください。